飼い犬に手を噛まれまして
「和香! 待って!」
人が……多すぎて……でも、諦めない!
「和香! 和香、和香、和香ー!」
給料泥棒したせいか、ラストスパートができた。改札口寸前で和香の手首を掴んだ。
「な? 紅巴、どうしたの? びっくりした!」
「和香、帰るの? もし良かったら、二人でご飯でも食べて行こうよ? ね、いいでしょ?」
和香は大きな瞳を二回まばたきして、「え? うん。いいよ」と頷いた。
─────二日酔いなんでしょ、と和香が選んでくれたのは和食ダイニングのお店。
障子で分けられた個室で、和香と向き合う。
「山咲さんから聞いてびっくりだよ」
「うん、こっちこそ。あんな風に追いかけられてびっくりだよ。周りの人たち、すごい顔で紅巴のこと見てたよ」
「あ……うん。ごめん」
木の箸で、ひじきの煮物を突っつきながら頭を下げる。