飼い犬に手を噛まれまして

「紅巴……」


 ポロポロと溢れた涙で、柔らかく煮えた大根が歪む。


「ごめんね……郡司先輩のこと捕まえてるようで、私もよくわかんなかったりするから……でも、別れたくないけど」


 ああ、もう何を言いたいのかよくわからない。

 どうして、私はこんなに自分の気持ち伝えるのが下手くそなんだろう。



「やめてよ。泣かないで……」


「うん、でも……和香……」



「わかったよ。わかってるから、そういう所が紅巴らしいね。

 あのさ、よく考えてごらん。私、退職するのに一人でトボトボ帰ってるような女だよ?」


「え? でも、花束もってるし、見送りしてもらったんでしょ?」


 深紅の薔薇の花束を指差す。

「これは、山咲さんがくれたの。あの人、私のこと好きだから……

 今日も見送りしてくれたの彼だけだった。デザイン課ですごい嫌われてたからね、私」


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