飼い犬に手を噛まれまして
山咲さんの事はそうかもしれない。
山咲さんは、いつも和香の心配してたし……言われてみれば、山咲さんが和香を好きなのは納得できる。
「私ね、報告会すっぽかしたでしょ? あれは紅巴に妬いた気持ちもあるけど、実は仕事も全然うまくいってなくてさ……シカゴでも、郡司先輩の足引っ張ってばかりいた。
口だけだな、ってデザイン課の人たち皆言ってる。私も、そう思う。
部長とデキてるからデザイン課に配属されたんだ、とか陰口言われて、打ち解けたくて飲み会やろうと誘っても誰も私の相手なんてしてくれない。
それが退職の本当の理由。人徳も才能ないの私。自分から逃げただけ。ごめん、紅巴」
これが本当の和香?
和香は、俯いて箸を置いた。
「そ、そんなことないよ! 私、和香に憧れてたよ! 仕事はできるし、いつも自分の意見ちゃんと言える」
「それで紅巴を傷つけた」
「……たしかに、先輩のことは傷ついたけど」
「あのね、私も紅巴に憧れてる。私、悔しくて……紅巴に嘘ばかりついてた。シカゴで、私は郡司先輩と何もなかったの」
えっ…………だって、和香は先輩に抱かれたって……先輩は、そういう人だって……
「抱かれたくて部屋に押し入ったら、俺は茅野が好きだから、ってハッキリ言われた。そんなふうに人から愛されたことがないから羨ましかった。でも、今日山咲さんから花束もらって、急に全部馬鹿馬鹿しくなった。私、結局嫉妬ばかりして自分の居場所を自分で壊してたのかも」