飼い犬に手を噛まれまして


「先輩が和香にそんなこと言ったの?」


 自分の居場所を自分で壊した……それは今の私にも言えること。どうして、先輩だけを信じなかったんだろう……


「うん、言ってたよ。郡司先輩って、あの容姿だから色んな噂あるけど実は一途なんだなぁ……て、ますます惚れちゃった。紅巴とのことも、会社で誰にも隠したりしないよね。

 デザイン課で紅巴人気あるんだよ、知ってた? 郡司先輩ってば、誰も手出すなよ! なんて宣言しちゃってさ、それでね……」


 和香が一生懸命先輩の話をしてくれてる。だけど、その話が頭の中に入ってこない。

 不安で自信がなくて、先輩はいつも輝いていて……

 憧れの先輩と付き合えて、夢みたいでふわふわしてるばかりだった。先輩はしっかりとした気持ちを持ってくれてるの?

 なんで、私は先輩のことだけを信じなかったんだろう?


「紅巴、聞いてる?」

「聞いてるよ。和香が前みたいに話してくれて、よかったよ」


 和香は嘘ついてたけど、私よりも真っ向勝負をしてる。


「ああ、狡いなぁ。そうやって紅巴は私のこと許してくれるんだね。私、最低のことを紅巴にしたんだよ?」

 私は和香のしたことを責める資格なんてないんだよ……胸に抱えた秘密がズキンと痛む。

「でも、無視されるよりはいいから……」

「もう! 負けた! 先輩が紅巴のこと好きになるの、よくわかったよ。
 私ね、次は小さな雑貨屋で働くの。そこでデザインの勉強しなおそうと思ってる。紅巴よかった来てね」

「うん、もちろん。でもごめん、私は和香が思うような人間じゃない」


 周りに振り回されてばかりいたら、私も全部壊してしまいそうだよ。





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