飼い犬に手を噛まれまして
二者択一
─────夜の東京をタクシーの中から眺める。
着替えや色んなものを詰め込んだぎゅうぎゅうのバッグから、携帯電話を引っこ抜いた。
「もしもし、先輩。自宅ですか? よかったら、今から会いに行っていいですか?」
郡司先輩は、合い鍵渡したんだから電話なんていらねーよ、と笑ってた。
なんで、家主の私が家出しなきゃいけないんだろ?
お人好しも程々にしないとね……
ううん、違う。
私、怖いんだ。あのワンコの真っ直ぐな瞳に吸い込まれちゃいそうで、逃げ出したんだ。
ワンコのこと何も意識してなかったから、一緒に暮らしてたって問題なかったけど、あんな風に求められた途端に、私ワンコが怖くなった。