飼い犬に手を噛まれまして
チャンスを逃すな?
お店を出て、人の波に逆らわないように「よし、帰るか」と気合いを入れてから歩き始めた。一度この波にのってしまえば、この時間帯の流れは確実に地下鉄の駅に向かう。
だけど、腕を引かれて気合いも虚しく私は流れから外された。
「郡司先輩っ?」
「俺も疲れたから抜けてきた。車停めてあるし、送るよ」
「えっ? ええっー? 先輩、来たばかりだったじゃないですかっ」
掴まれた右腕をそのままに、郡司先輩は流れに逆らって歩き出す。
「烏龍茶飲んできたよ」
「郡司先輩! いいですよー、近いし、まだ電車いっぱいありますから!」
「こういう時、素直に送らせない女ってモテないよ? 俺に恥かかせる気?」
「……そんなわけじゃ……」
ふと機嫌悪そうな顔した先輩に罪悪感いっぱいになる。
「いいから、来いよ」
それから可笑しそうにクスクス笑った先輩に嬉しさが加わって、私はわけがわからず先輩に腕をひかれた。