飼い犬に手を噛まれまして


「茅野は食べないのか?」

「はい、和香とご飯食べました」

「和香と? どうして」

 熱いうどんに、ふうふうと息を吹きかけながら眉間に皺を寄せた先輩。


「はい……退職しちゃうって知らなくて、山咲さんから聞いたから」

「そうか」

「和香、雑貨屋さんでもう一度デザインの仕事やるって言ってました」

「それは、よかった。アイツ直感鋭くて才能あるくせに、野心ありすぎだから、うちみたいな会社よりこじんまりとした所のほうが向いてると思う。
 でも、よかったよ。俺のせいで、ギクシャクしてただろ?」

「はい。先輩が悪いわけじゃないけどモテる男って罪ですね」


 頬杖ついて、ワカメうどんを食べる先輩を見つめる。


「なんだそれ。でも悪かったな、余計な心配させて」


 ただうどん食べているだけでも先輩は、たまらなくカッコいい。

 外見だけじゃない。

 ちょっとずつわかっていく素顔も、ほっとけない部分があったりして、憎めなくて余計に魅力的だ。



< 221 / 488 >

この作品をシェア

pagetop