飼い犬に手を噛まれまして


「これ食べたら、一緒に風呂入ろうな」

「はい……あの、電気消してもいいですか?」

「却下。今更だろ、俺はもう茅野の体中にキスしてるよ」

「うどん食べながら、そんなこと言わないでくださいよ!」


 先輩と笑い合いながら、部屋に一人残してきたワンコを思い出すとズキンと胸が痛くなる。


「先輩…………」

「どうした?」

「いえ、何でもないです」



 バスルームで何回も先輩にキスされながら、ワンコの寂しそうな顔が何回も何回もまぶたの裏に浮かんでくる。


『紅巴さんも俺を捨てるんですか?』

 こんな気持ち、ただの同情だよ。

 目の前の優しい人は、柔らかく微笑んでくれるから……


「こういうのいいな……はやく俺の部屋に住めよ、茅野」


 首に腕を回してキスで答えるんだ。私は先輩が大好きなんだから……



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