飼い犬に手を噛まれまして
「でも、それは全部間違いだって、最近ようやく気がつけた。俺はエリナと結婚なんて想像すらしてなかったし、あっちも同じだ。
エリナは結婚する。俺じゃない男を選んだ。呼び出されたのも、エリナからじゃなくて秀監督からだ。アイツにはもう二人で会うなって言われたけど、二人で会っても俺たちは恋人としては、かなり前から完全に終わっていたんだ。
モデルのアイツと仕事して、学生時代の友だちとアイツの結婚祝いして、この距離ならお互いにいい関係でいられるなって大笑いしてたとこだ」
「先輩は、それでいいんですか?」
「俺が未練がましく、結婚しないで欲しいとか言うと思ってんのか?」
「私には、わかりませんけど……」
「なんでわからないんだよ! 茅野が何も理解してないと困る。俺は厄介な男だって、理解して、それでも茅野は全てを受け止めてくれると信じてるから、俺は茅野を選んだ」
先輩の怒りの矛先がわかった。私に……そんなことできるのかな…………
「俺は茅野が好きだって言ってるだろ。エリナと縁が切れて、清々したからやっと茅野に告白できたのに……
だいたいさ、茅野はエリナのこと知って、なんで俺を質問攻めにしないんだよ。そういうの嫌なんだよ。心配なことあったら、一人で悩まないで、何でも聞いてこい」