飼い犬に手を噛まれまして
もう二度と会えない
────「えぇーっ!?」
「紅巴! シーっ! 声大きいよ! タカシさんと先輩に聞こえちゃう」
「あ、うん……ごめん」
それから、数日後。朋菜の家のキッチンでひそひそ声の報告話を聞いていた。
広いリビングでは、L字型の特大ソファーに優雅に座ったタカシさんと郡司先輩がワイングラス(先輩のグラスの中は、ブドウジュースだけどね)片手に談笑している。
「だから、これ私が紅巴から預かった鍵と、こっちがワンコから預かった鍵。
ワンコの荷物も何も無いから、引っ越しするなら、もう部屋に入って大丈夫だよ」
「ワンコ……一人で出ていっちゃったんだ……」
渡された二つの鍵をポケットにしまい。重い気分になった。
サヨナラも言えなかった。私、先輩の所に逃げてから一回も部屋に帰らなかったから。