飼い犬に手を噛まれまして
人事異動
────引っ越しは、朋菜が荷造りを手伝ってくれて、先輩とちょっとずつ運び、あっという間に私の部屋はガランとした。
何もなくなった部屋を見ると、やっぱり寂しくて、大きすぎたテレビがあった場所や、ワンコが寝ていた場所や、ご飯を食べてたテーブルの場所……その一つ一つの思い出を目に焼き付けようと部屋を回る。
「茅野、もう何もないか? クローゼットの中だけ確認した方がいいぞ」
「はい、先輩」
何年も住んでいたのに、自分の荷物は予想外に少なかった。
「大丈夫だと思います」
「これは? ゴミ袋の下にあったけど」
「あ……」
先輩からオレンジ色のボールを受けとる。ワンコにプレゼントしたボールだ。