飼い犬に手を噛まれまして
「まさか、オーナーに内緒で飼ってるのか?」
先輩がニヤリと笑い、私を見た。心臓がうるさいくらいに脈打った。
「……はぃ」
そんな感じです……。でも、きっともういなくなってます。
今日は午後から授業って言ってたから、それまでに荷物まとめて出て行ったか、学校で誰か仲のいい友達に事情を話していると思う。
ただの隣人の見ず知らずの女の部屋なんて、普通に考えたら嫌だろう。
しかも、私はかなりの年上だし。彼、けっこう可愛い顔してたからモテそうだもん。
「犬? 可愛い?」
「……えっと、ええ、まあ」
そんなもんですけど……
「ふーん」
郡司先輩は、ただの「ふーん」も素敵だ。左手だけをハンドルに残して、右手を窓枠においた姿も絵になる。
同じ人間とは思えないくらいに、その容姿が声が存在がキラキラしている。