飼い犬に手を噛まれまして
「ごめん、離れて……」
ワンコの顔を覗き込む。元気そうでよかった、という安堵と、離れて欲しいっていう気持ちが半々だ。
「……そうですね。これ以上、紅巴さんに嫌われたくないし」
そんな寂しそうな顔しないで欲しい。胸が苦しくなって、泣きたくなる。
「ワンコ、これどういうことなのか説明してよ」
副社長の椅子にギシッと音をたてて座ったワンコ。
「知ってたんですよ。俺」
「何を?」
「紅巴さんが、うちの親の会社に勤めてること」