飼い犬に手を噛まれまして
─────翌朝、すっかり定位置になったレクサスの助手席で通勤。
贅沢な時間だ。
「秘書スーツの紅巴なかなか様になってるよ。その髪型、大変そうだったな」
「すみません、時間かかっちゃって……」
慣れない髪型に戸惑いながら、先輩を待たせちゃった。でも、先輩は嫌な顔一つしないで私を待っててくれた。
「俺の横顔なんかついてるか?」
「いえ、カッコいいなぁーと思って」
先輩は、変な奴、て言って笑った。
「副社長となんかあったら、俺のデスクにすぐ内線電話しろよ。携帯出すより早いだろ?」
「やめてくださいよ、大丈夫ですから。先輩は、仕事に集中してください」
「まあ……な。たしかに、もうすぐBNJのCMフェスがあるんだ」
BNJっていったら、色んなメディアが注目する日本最大のコンテストだ。
うちだけじゃなくて、制作会社の大手が挙って参加する。
「先輩も出るんですか?」
「ああ、できればな。俺は、まだ映像部門での受賞がないから」