飼い犬に手を噛まれまして
「だって、この口紅も髪型も、紅巴さんには似合わないですよ! いつも通りにしてください」
ワンコは、ふんと鼻をならすと不機嫌な顔して副社長の椅子に座る。
「秘書課の決まりなのーっ! 加賀谷さんに怒られちゃうでしょ! ヘアーコーム返して!」
「嫌です。そんな決まり、俺の秘書は除外させます」
「もういいっ!」
口紅がはがれた、ボサボサ頭で姿勢を正すと頭を下げる。
「副社長、名刺が出来上がったようなので、庶務課にとりにいってきます。十時からは役員会ですので、よろしくお願いいたします」
ふん、とそっぽ向いたわがまま副社長に、べーっと舌を出して、失礼します。と部屋を出た。
こんな格好、誰かに見られたら誤解されちゃうよ。
控え室で鏡を見ながら、仕方ないので普段使っているリップグロスを塗り直して、ビーズのヘアークリップで髪を横に流してとめた。
ワンコがそうしろって言うんだから、これで元通りだ。