飼い犬に手を噛まれまして
「萌子先輩ー、ワン……じゃなかった副社長の名刺もらいにきました!」
「茅野!」
庶務課には、若い女子社員が二人配属されていて、今はまさに引き継ぎの真っ最中なんだろう。二人はメモ帳片手に真剣な顔をしていた。
庶務課は、地味だけど会社には欠かせない部署だ。秘書のいない社員全員の秘書みたいなものだから。
「あんたが副社長秘書なんかになるから! あたしが有給消化できなくなっちわゃったわよ!」
萌子先輩は、目の敵とばかりに私を睨みつけてきた。
「私のせいですかっ? そんなの副社長に文句言ってくださいよ! なんなら引きずり下ろしてきましょうか?」
「何、生意気な口きいてんのよ!」
私と萌子先輩のやりとりに、ぎょっとした顔した二人はメモ帳から顔をあげた。