飼い犬に手を噛まれまして


「はい、これが副社長の名刺。で、こっちが茅野の名刺」

「え、私のもあるんですか?」


「当然よ。しっかりしなさい」


「はい」


 箱に入った名刺の束を抱える。


「はあ……やっぱ庶務課て落ち着きますね。実家に帰った時のあの安堵感に似てます」


 備品が並ぶ棚に囲まれた部屋だけど、私が一番長くいた部署だからな……。


「何言ってんのよ、良かったじゃない副社長はなかなかのイケメンだって、女子社員の間で話題になってるわよ。

 郡司くんといい、副社長といい、茅野はいつか後ろから刺されるわよ。ブスッとね」


「コワいこと言わないでくださいよ。私には郡司先輩しかいません!」


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