飼い犬に手を噛まれまして
結婚? と、私以外の三人は首を傾げた。
「どこでそんな噂聞いたのよ、茅野。羽根深陽は、シンガポール支社の前の支社長をクビにして自分がそのポストについたような女よ。
鉄の女、サッチャー首相みたいな女なんだから……逆にシンガポール支社をうちに吸収させちゃうんじゃないか、なんて噂があるくらいよ。結婚の、け、の字もなわよ」
萌子先輩は、自分の薬指にキラリと光るダイヤモンドのリングを私たちに見せびらかしながら、私もかつてはそんな風だったけどね……と物憂げに呟いた。
深陽さんは、結婚するためにシンガポールに行ったわけじゃないの?
「茅野? どうしたのよ、難しい顔して。
あ、副社長が遠距離恋愛中なのかそれとなく探ってみなさいよ!」
「きゃー! もし、そうだったらすごいですね! SKMとイーストが合併とかあるんですかね?」
「それはないわよー、どっちも長年恨み怨みながら競って伸びてきたんだから、合併したって上手くいくはすがないもの。
喰うか喰われるかよ!
今年のBNJの最優秀賞を郡司くんあたりがとってくれれば、うちが優勢なんだけどなー」
「うわー、ドキドキしますね! 禁断の恋! 副社長あんなにキュートなのにぃー」
「ドキドキしちゃいますね!」