飼い犬に手を噛まれまして

「紅巴さん」

「わっ! はい、どうしましたか?」

 いきなりドア開けないでよね!

 記事を後ろに隠して、副社長室から出てきたワンコに答える。


 荒れてるなぁ……スーツのジャケット脱いじゃったし、ネクタイもはずしちゃったよ……


「下の階で仕事します。こんな部屋いらない。社員たちの仕事が見たい」

「え? わ! ちょっと、待ってよ!」

 勝手に部屋を飛び出して、スタスタと階段を降りていくワンコ。

 仕方ないからその後を追うことにした。


「俺、親父に押し付けられて経営の勉強ばかりしてきたけど、本当はデザインの勉強もしたかったんですよ。面白そうじゃないですか」


「面白そうって……そんな簡単な話じゃないですよ。皆、真剣にやってます。それにコンテストが近い時はいつも殺伐としてますよ」

 制作フロアーは、上階と違って人の活気に満ちてる。
 私も、こっちのフロアーの方が好きだけど……。

「それくらいわかりますよ。邪魔はしません。それに深陽から、見様見真似でちょっと教わったこともあるんです」


 ワンコ! 企画デザイン課に入っていくし!


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