飼い犬に手を噛まれまして
昨夜拾ったこの犬、私は物凄い後悔のドツボにいた。
もし彼がいなかったら、私はあの郡司先輩をこの部屋にあげていたかもしれない。そして、もしかしたら……可愛い以上に素敵な言葉を先輩は囁いたのかもしれない。
「だって……」
「だってじゃない! なんで出てかないの?」
「茅野さん……」
彼は俯くと、がっくりとうなだれてフローリングの床に正座した。
「聞いてくれますか?」
「なにを?」
「実は……まだ未練があるんです。
前付き合ってた彼女は社会人で、僕よりも大人な女性でした。頭も良くて、ハキハキしていて……尊敬していたんです」
声が震えて涙声に変わる。犬というかワンコは、拳をぎゅうと握りしめた。
「だから、此処で彼女の帰りを待ちたいんです……茅野さん!」
ワンコは潤んだ瞳で私を見つめる。
「僕と、ルームシェアしてくれませんか! ペットを飼ったと思えばいいじゃないですか! 問題ないと思います! 家賃は半分払いますし! 居酒屋でバイトしてるんで、まかない弁当は二人分もらってきますから!」