飼い犬に手を噛まれまして
「社長は、放っておけ、とだけ仰っています。くれぐれも他の社員に迷惑をかけないように、茅野さんがしっかり見張っておいてくださいね」
「はい……」
あ、私また飼い主さんに逆戻りしてるよ……これって腐れ縁てやつなのかなぁ?
「それから、イーストエージェンシーの羽根深陽は知ってる?」
「深陽さんがどうかしました?」
「知ってるなら話が早いわ。社長は、副社長と羽根みはるの接触だけは避けるようにと言ってきたわ。私生活までは秘書課は管理できないけど……もし、副社長が波根深陽と接触するようなことがあれば、すぐに知らせて欲しいそうよ」
「それって……社長も、自分の息子がイーストエージェンシーのスパイかもしれないって思ってるんですか?」
ワンコは、辛い想いして、深陽さんと別れたんだ。
それをよりによって皆してワンコのこと疑ってる。
ワンコは、そんな人を欺くようなことは絶対にしないよ。
「茅野さん怒らないで、万が一の話をしてるのよ。もし、羽根深陽が副社長を利用しようとしてきたら、ダメージを受けるのはうちの会社なのよ?
あなたも職を失いたくないでしょう」
そうだけど……
深陽さんって、本当にそんな人なのかなぁ?
私が会った時の印象は、知的で綺麗な人だけど人を騙すような印象はない。