飼い犬に手を噛まれまして

「乾杯……しましょうか? ねえ、副社長」


 一番重い空気発してるのは、コイツだ!


「はい、じゃあ、乾杯」


 四つのグラスがカチンと合わさる。


 それぞれ別々の視線でグラスの中の飲み物をゴクリ。



「朋菜、タカシさんの夕飯は大丈夫なの?」


「うん、今日は医師会なんだ……帰り遅くなる」


「そ、そっか、歯医者さんも大変ですねー? 先輩」


 先輩の薄い唇がジンジャエールをグラスから離れる。小さく頷くと、両手でグラスを弄びながら深く腰をかけて、俯いただけ。

 いつもなら、会話も弾みそうなのに!


 ワンコの重い空気が先輩に乗り移った?




「せ、先輩?」



< 311 / 488 >

この作品をシェア

pagetop