飼い犬に手を噛まれまして
「副社長は、秘書を決める時に紅巴を指名してきたって聞いてる。それは最初から、紅巴に近づく目的で指名してきたんだよな?」
先輩が今にもワンコに殴りかかりそで、体がびくんと震えた。
ピシャリと言い放ち、言い訳する隙もない。
「先輩……ごめんなさい。私が、ちゃんと話さなかったから……」
「そうですよ、アナタから紅巴さんの奪ってやろうと思って指名しました。でも勘違いしないでくださいね。アナタに個人的恨みがあるわけじゃないです。
俺、紅巴さんが欲しいんです」
ワンコ…………もうやめて……
「紅巴、帰ろう。朋菜ちゃんも送るよ」
「先輩っ!?」
先輩は、スーツのジャケットから二つ折りの財布から一万円札を出すと、テーブルに置いた。
それから私の腕を掴んで、朋菜にもついてくるように手招きした。