飼い犬に手を噛まれまして
痛いくらいきつく握られた腕に引かれて歩く。
こっそりと後ろを振り返る。落ち着いた雰囲気のステーキハウスの四人掛けの席で、ワンコはじっと空になったグラスを見つめて独りぼっちで座ってた。
その横顔に胸が痛い。
なんで、こんな酷いこと言うんだろう。
「紅巴、今日は帰ろう。私、タクシーで帰るから」
「うん、ごめんね……朋菜」
朋菜と別れて、レクサスの助手席に座る。先輩は、無言でエンジンをかけると一気にアクセルを踏み込んだ。
先輩の静かな怒りが怖くて、涙が溢れる。
先輩を怒らせるつもりなんてなかった。ただ、心配させたくなかった。
それだけなのに、もう何もかもが遅かった。