飼い犬に手を噛まれまして


 久々に窮屈な地下鉄に乗り込んだ。人に押されて流されて会社にたどり着くのも久しぶり。


 すれ違う顔見知りに挨拶しながら、重い足を引きずりながら副社長室までたどり着いて足を止める。

 もう企画デザイン課に下りてるかな?
 ノックをすると「はい」と短い返事があった。


「おはようございます」

「紅巴さん、よかった……来ないかと思った」

 ワンコは嬉しそうな顔をした。
 安心したようで、ホッと胸をなで下ろしたような。救われたような……


「来ますよ。社会人ですから」

「紅巴さん……」



 ワンコの手が伸びてきて、私の右腕を当然のように掴んだ。
 逃げようと小さく抵抗してみても、あらかじめ決められたことのように両腕が背中に回る。


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