飼い犬に手を噛まれまして
「やめて……」
「酷い事いってすみませんでした。俺、怖くて……これ以上何も失いたくないのに、わざと嫌われるような事した」
大嫌い……身勝手で、人のこと振り回してばかりいる。
だけど、その震える腕を振り払えない。
「紅巴さんが好きです」
ワンコがすごく男らしい顔つきになる。従順で可愛いワンコなんてどこにもいない。
「アイツと別れて、俺と付き合ってください……親に頭下げて、この会社に来たのも全部紅巴さんが好きだからです」
ワンコに力強く抱き締められて、抵抗もできないまま、耳元に熱い吐息がかかる。
「好きだ……」
でも、違う。全然違う。
前にワンコは私と深陽さんを間違えた。あの時のワンコの必死さと、今のワンコは全然違う。
深陽さんには、自分のありったけの想いをぶつけていて、こっちまで泣きたくなるくらい心を揺さぶられたけど、私への好きは種類が全然違う。