飼い犬に手を噛まれまして


「気配消されても、気になっちゃって集中できないじゃん!」


 つい本音がポロリ。別に郡司先輩とそういう関係になるって決まったわけじゃないのに、ワンコ相手に何言っちゃってるんだろ私。


 ワンコは、「へー、集中して喜ばしてあげるタイプなんだ。意外だな……」と可愛い顔を一瞬だけ歪ませたような気がした。見ちゃいけないものを見てしまった気がする。



 すぐに頭を床にこすりつけて従順さを猛烈アピール。


「余計なこと言ってごめんなさい。どうか、此処に置いてください!」


 ワンコは、三つ指をついて土下座したまま固まった。



 どうしよう……こんな子部屋に置いて大丈夫かなぁ?

 そういえば、今朝寝ぼけながら「俺」って言ってたはずなのに、昨夜と今夜は「僕」って言ってるし……




「茅野さんだけが頼りなんです! 実は携帯代も払えなくて、彼女との繋がりがこのマンションしかないんです!」


 ワンコは、ついにシクシク泣き出した。可哀想なくらい一生懸命だ。









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