飼い犬に手を噛まれまして


「私にとってワンコは、まだまだワンコだよ」



 抱き締められて、キスをして、私を幸せにしてくれるのは先輩だけ。
 ワンコに抱き締められて、キスしても、先輩に罪悪感を抱いただけ。


 ワンコは、ワンコだから心配だけど……でもそれだけで、これは恋じゃない。




「昨日、気がついちゃったんでしょう? 深陽さんにはフィアンセなんていないこと。何のために別れたのか、よくわからなくなった。

 それに、会社では皆に冷たくされて不安だったんだよね。

 あのね、ワンコが深陽さんのスパイじゃないかって噂してる人もいるんだよ。郡司先輩も加賀谷さんも疑ってた。

 それが今のワンコに対する会社での冷たい風当たりの正体だよ。ワンコが悪いわけじゃない。だけど、ワンコは深陽さんのことも、会社の皆が何を考えているかも知らなかったから、私に八つ当たりしてる」




 ワンコの表情が固まる。ゆっくりと私から退く。

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