飼い犬に手を噛まれまして

「私のこと、深陽さんの身代わりにしないで……未練があるなら最後まで悪足掻きしてみなよ」


 ワンコの右目から、スローモーションのように一筋の涙がこぼれた。その涙が、ワンコがまだ深陽さんのことを好きな証拠だ。


「ずっと深陽さんだけが好きだったんでしょう? 私で寂しさ紛らわしてただけ」

 ワンコが壊れちゃいそうなくらい辛そうな顔をした。



「それ以上言わないで……紅巴さん、辛くなる」


「無理して私に告白するほうが辛いと思うよ……深陽さんに会いに行ってあげようよ。私も一緒に行くから」


「でも、俺すごい迷惑ばかりかけてる」

「今更気づいた? すっごい迷惑だよね」




 でも、ワンコが私に手を救いを求めてくるなら一時の飼い主さんとして、最後まで責任は果たそう。



 
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