飼い犬に手を噛まれまして

 制作フロアーの中でも一番小さな会議室。ホワイトボードが一つにテーブルと椅子が四脚置いてあるだけの会議室。


「紅巴、悪い話か?」

 先輩の低い声が、すぐに壁に反射される。


「いえ……最初に謝らせてください。副社長……ワンコのこと内緒にしてごめんなさい。彼とは、一緒に暮らしてましたし、色んな事もありました」


 頭を下げると、いいよ、と短い返事。


「俺も余裕なくて、悪かった」

「先輩が謝らないでください!」

「紅巴……」

 先輩に抱き寄せられる。


「こんな事で、すぐに妬く奴だから紅巴言えなかったんだろ?」



 先輩の香りと温もりで満たされていくことに喜ぶ私。先輩を好きになれて、本当によかった。




< 325 / 488 >

この作品をシェア

pagetop