飼い犬に手を噛まれまして
薄茶色の瞳が優しく細められると、自然と胸が高鳴る。
ずっと憧れていた人が、自分だけを見てくれているのに……私はこの人に隠し事をしてた。
もし、こんなことにならなかったら今も先輩に秘密を抱えたままかもしれない。
「キスしていいか?」
「だめ……です」
先輩の瞳が強張る。
「どうして……? 副社長にはキスさせたんだろ?」
「あれは……本当に間違いだったんです。先輩とするキスとは全然違います。
それより先輩。私、ワンコと二人でシンガポール行ってきます」
「シンガポール? まさか、羽根深陽かっ? 紅巴、やめろ。何考えてるんだよ……」
先輩が私の両腕をきつく掴む。
「先輩を裏切るような事はしません」
「それなら行くな! シンガポールに行くこと自体が裏切りだ」
「でも、会わせてあげたいんです。ワンコ、追い詰められていっぱいいっぱいなんですよ。辛くて……見てられない」