飼い犬に手を噛まれまして

愛の逃避行





────空港に向かうタクシーの中で、隣に座るワンコの指が私の指にからまってきた。


 ぎゅっと握り返してあげると、窓の外を眺めていたワンコがこっちを見る。



「やっぱり、スーツ姿よりそっちの服そうのほうがワンコって感じする」

「紅巴さんも、秘書スーツより、そっちのほうが紅巴さんて感じですよ」


 先輩にだけ事情を話して、他の誰にも何も言わずに私たちは会社を出た。
 これで二人揃って仲良くクビは確定だ。
 一応お互いに辞表は書いてきた。


「こんなすぐに行かなきゃだめだったんですか?」

「だめ」





 今行かないとワンコの決心が鈍っちゃうから……今だって、私がこの手を離したら逃げ出しそうだ。

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