飼い犬に手を噛まれまして


 別に意地悪してるわけじゃないんだけど、大丈夫かなぁ……ワンコ。飛行機の中でも眠れないみたいで、ずっと窓の外を見ていた。

 機内食も残していたし、元気がない。


「深陽は、大学の先輩だったんですけど……英語サークルみたいのに入ってて英語ペラペラなんですよ」

「そうなんだ、羨ましいなー。私、全然喋れない」

「俺も苦手です。付き合ってる時は毎日一緒にいて、毎日一緒に遊んでたのに、深陽は全然成績下がらなかったんですよ。俺だけ毎年単位も試験もギリギリでした」

「へぇー、すごいんだね! 深陽さん」

「何でだろ……一緒にいたのに」

「わかる。私も先輩と一緒にいるのに、ついていけない事ばかりだよ。そういう時は、ただ見守ってるだけ」

「俺も郡司さんみたいになりたい」

「そう? ワンコはワンコのままでいいと思うけど」

「じゃあ、どうして俺を好きになってくれないで深陽に返品しようとするんですか?」

「それはワンコが深陽さんを完全に諦めてないから」

「諦めたら、好きになってくれるの?」

「うーん」

 窓の外は、日本とは違う亜熱帯地方独特の大きな木が茂っていた。
 近代的な街並みには、綺麗な花が咲き乱れている。

「いつも俺だけが夢中になるんだ。ねぇ紅巴さん。やっぱりマーライオンを、先に見に行きませんか?」


「深陽さんが先でしょ!」

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