飼い犬に手を噛まれまして
「坂元様、お待たせしました」
内線電話で話をしていた受付嬢が顔をあげる。
「支社長からお会いできないと……」
え……そんな……
「ちょっと待ってください。会えないってどういうことですか? 私たちわざわざ日本から来たんです。忙しいなら、また違う時間に出直して来ますよ」
受付嬢は困った顔をする。困ってるのは私たちのほう!
「申し訳ございません。何を言われても、ここを通すことはできません。支社長は、穏便にお帰りいただけないようでしたら警備員を呼んでもいいと言われております」
「けっ? 警備員て……だって、知り合いなんだよ? おかしいよ!」
何それ! 私たち、ただ日本からここまで深陽さんに会いに来ただけなのに?
「紅巴さん! やめてください」
「待って、ワンコ。わかった……ごめん。
すみません。お願いだから、電話口でいいから深陽さんと話させてくれませんか?」