飼い犬に手を噛まれまして


 受付嬢は、首を横に振る。


「紅巴さん、行きましょう」

「でも、ワンコ……」

「いいから、マーライオン見に行きましょう」


 ワンコは、二人分の荷物を掴むとエレベーターのボタンを押した。ガンっと強く押したから受付の子たちが怪訝そうな顔をした。私は「ごめんなさい。お騒がせしました」と頭をさげてエレベーターに乗り込み、イーストエージェンシーをあとにした。



 ここまで来たら自然と道が開けると思ってた。どこから来てたんだろう。その根拠のない自信は……

 ううん、多分深陽さんが最後に見せたあの表情のせいだ。






 それなのに、会ってもくれないなんて……


< 341 / 488 >

この作品をシェア

pagetop