飼い犬に手を噛まれまして
『そっか、それは楽しそうでいいじゃないか。俺は紅巴が無事に、俺の元に帰ってくればそれでいいから』
嬉しくて、ついでに先輩ホームシックになって涙が零れた。
「ちゃんと、帰りますよ」
『危ない場所には行くなよ。部屋には必ず鍵かけて』
「はい。行きませんし、オートロックです」
『それなら安心……あ、でも一番心配なのは一緒に行ってる奴だけど…………』
「ワンコ……相当落ち込んじゃってて……そうだ、先輩、会社の様子はどうですか?」
『ああ……』
声のトーンで、悪いニュースだと思った。
『紅巴は、クビだろうな……仕方ないよな、仕事中に消えて無断欠勤してるんだから』
ああ、やっぱり。でも、いいんだ……仕事には未練ない。日本に帰ったら、すぐに就職活動しないとね。
『副社長については何も……』
「ワンコは仕事続けられるんですか?」
『多分、そっちが羽根深陽と接触せずに帰ってくれば副社長は復職できるだろうな。社長は、副社長と羽根深陽を完全に離別させたいんだ。ライバル社の令嬢なんかに一人息子を差し出したくないだけだ』
「それって、やっぱり社長はワンコが可愛い息子だから?」
『俺も人の親になったことないから気持ちは、わからないけどな。なんなんだろうな、親って。自分勝手で子どもが思い通りにならないと腹がたつんだろうけど、決して見捨てたりはしない』
「でも、よかったです。あとは社内でのワンコに対するイメージが良くなれば……あ! 先輩に迷惑かけてませんか? それも心配で! しかも大切な時なのに……」
『俺? 俺は大丈夫だよ。うまくやれるよ。
それより、萌子先輩も怒ってたぞ。「私があれだけ大切に育てたのに、お疲れ様です。の一言も言えないのか!」て伝えておけってさ』
「あはは、萌子先輩らしい。私、ちゃんと挨拶だけはしたんですけどね。日本に帰ったら謝りに行きますよ」