飼い犬に手を噛まれまして
飼い犬に手を噛まれまして
────「こらぁ! 茅野! 遅い!」
「ひゃー、すみません! 萌子先輩!」
「入場券がないと中に入れないのに、入場券持ってる奴が遅刻するなーっ!」
「は、はい! でも、この入場券たまたま郡司先輩がさっき手に入れてくれて、たまたま暇してた萌子先輩を私が誘ったわけで、うちの方が遠いし……」
「うるさい、口答え無用! はやく、入るわよ!」
「はーい! あまり怒ると、お腹の赤ちゃんによくないですよ。萌子先輩、ほらスマイル、スマイル」
「あんたに言われなくても、わかってるわよ!」
妊娠報告聞いた時は、ただ漠然と萌子先輩がママになるんだー。と思っただけだけど、こうしてお腹が少しずつ目立ってくると、ああ本当に萌子先輩がママになるんだ! て実感がある。
幸せな結婚式は感動的で何回泣いたかわからない。
郡司先輩は、そこまで泣かれると自分たちの時もすごそうだな、なんて冗談で言っていた。あの萌子先輩のウェディングドレス姿が見られる日がくるとは夢にも思わなかったんだから仕方ない。
郡司先輩が頭を優しく撫でてくれて、ますます泣けてきたのが今となってはいい思い出。あっという間にご懐妊のお知らせが届き、てんやわんやで今に至る。
「紅巴!」
「あぁ、朋菜よかったよー。道迷わなかった? あ、萌子先輩、友だちの朋菜です」
「萌子先輩っ! お会いできて感激です」
「あら、そう? 朋菜ちゃんね。よろしく」
萌子先輩は尊敬の眼差しの朋菜に気をよくして「行きましょ」と私たちの先頭に立った。