飼い犬に手を噛まれまして

 ソファーから見える扉が薄く開いていた。何か赤いものが見えるから、気になってその部屋の扉を開く。

「うわっ! すごい!」

 そこは広すぎる寝室で……しかも赤いバラの花びらで絨毯ができていた。雑誌やテレビで見たことあるけど、すごい演出だ。濃厚な花の香りに視覚だけじゃなくて嗅覚もやられて目眩がしてくる。

 先輩……受賞するの知ってたのかなぁ?

 だから、こんな演出までして……お祝いしようとしてた?

 もしかして、私と? それとも、違う誰かと?

「これ、注文した時は深く考えなかったけど、想像以上に派手だな。紅巴、こういうの嫌いじゃないだろ? 前に花束欲しがってたし」

 背後から抱きしめてくる腕。


「きゃっ! 先輩! いつの間に?」


 今来た、と言って一瞬で私の唇は奪われる。
 花の香りと先輩の香りが混ざりあって、余計に魅力的になる。

< 375 / 488 >

この作品をシェア

pagetop