飼い犬に手を噛まれまして
支社の受付から『日本からいらっしゃったお客様、シンガポール航空925便でお帰りになるそうですよ』と聞いてしまってから、これを逃せばもう二度と星椰に会えなくなる、と思った。
それがお互いの為になる、て自分に言い聞かせた。なのに体は走り出していた。
空港で、ずっと会いたかった後ろ姿を見つけて……でも隣には別の女の人を連れていて、嬉しさと苛立ちが混ざって星椰を殴った。
「まだ痛い?」
「ううん、そんなに。みはるに優しくされたいから嘘ついた」
星椰の頬を冷やしていたタオルが、タイルの床に落ちた。
一人暮らしには広すぎる部屋。殺風景だから大きなゴムの木を置いた、天井で回転している大きなファンの音は、ちょっとうるさい。
「嘘つき……」
反省の色がない可愛い笑顔。
可愛い……可愛いすぎるんだよ、星椰は…………
「みはるが、好き。これは嘘じゃない」