飼い犬に手を噛まれまして

シンガポール・ナイト


─────「いいよ、みはるの好きな髪型にしてよ」


 マンションの狭いベランダで、星梛の首にタオルを巻いた。

 ここに星梛がやってきて半月が過ぎていた。



「この髪型は、紅巴さんが?」


「ううん、紅巴さんの友達の朋菜さんていう人妻」


「人妻?」


 丸椅子に座ったまま、私の胸に顔をうずめた星梛。頭を左右に振ると、すうっと息を吸い込んだまま動かない。



「くっついてたら、髪が切れないわ……」


「だって、みはるが怒った顔するから」



 胸から顔をあげて、無表情に下から見つめてくる真っ直ぐな眼差し。


 ちょっと手放した隙に、こうやって何人の女に甘えてきたんだろう。





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