飼い犬に手を噛まれまして
「怒ってなんかいないわ」
「怒ってる」
「怒ってない。自惚れないで、ほら、前向いて」
蒸し暑い夜だけど、風が気持ちいい。くしで丁寧に星梛の髪をとかして、ハサミを入れる。
他人に髪を触られるのが苦手だって言ってたくせに……紅巴さんの友達にまで髪を触らせるなんて……星梛は誰でもいいんだ……私じゃなくても……誰にだって甘えて生きていける。
「みはる?」
「少しじっとしててね」
「うん、わかった」
私のマンションに住み始めた星梛は、一日のほとんどをこの部屋で過ごす。