飼い犬に手を噛まれまして


「怒ってなんかいないわ」


「怒ってる」


「怒ってない。自惚れないで、ほら、前向いて」


 蒸し暑い夜だけど、風が気持ちいい。くしで丁寧に星梛の髪をとかして、ハサミを入れる。


 他人に髪を触られるのが苦手だって言ってたくせに……紅巴さんの友達にまで髪を触らせるなんて……星梛は誰でもいいんだ……私じゃなくても……誰にだって甘えて生きていける。



「みはる?」


「少しじっとしててね」


「うん、わかった」



 
 私のマンションに住み始めた星梛は、一日のほとんどをこの部屋で過ごす。



< 390 / 488 >

この作品をシェア

pagetop