飼い犬に手を噛まれまして
「はぁーい、はい。ちょっと待ってね。今開けるから」
スプーンを片手にドアチェーンを外す。鍵を開くと、ドアノブが勝手に回転して、ドアが開く。
「助かりました。茅野(ちの)さん!」
「えっ……?」
誰、この子?
男の子にしては少し長めの髪の毛は無造作に切りそろえられ、少し日焼けした肌は健康的で、爽やかなイメージだ。そして、整った顔立ちをしている。
年齢はまだ若い。明らかに年下。
「茅野さん、俺隣の部屋の坂元(さかもと)です」
「あ、ああ!」
一番西側の角部屋には、若い男の子が住んでいた。彼が引っ越してきた時に、引っ越しの挨拶にタオルをもらったっけ。
クマの可愛いデザインで、あれはけっこうお気に入りだったから悪い印象はないんだけど、私たちは互いの生活リズムが違うのか、あれからあまり顔を合わせていない。
いかにも今時の男の子といったカーキ色のジャケットにデニム姿の隣人は突然うるっと目を潤ませる。
「茅野さん、俺のこと拾ってくれませんか?」
「ええっ?」
隣人の申し出に、私の頭の中はハテナマークが溢れ出す。