飼い犬に手を噛まれまして
この幸せ、私はもう絶対自分から手放せない。星梛を手放せない。
「支社長? マレーシアのインディ様からお電話です」
「はい、わかったわ。まわして」
口元をナプキンでふいて、ミネラルウォーターを流し込む。
電話の内容は、自分がやってはならないミスを咎める内容だった。
『伝えていたイメージと全然違うじゃないか! どうしてだ、日本の企業だっていうから信頼していたのに! これじゃあ、高い金払った意味がない!』と罵らても、自分にある非に気づいてしまってからは、ただ相手の怒りがおさまるのを待つことしかできない。