飼い犬に手を噛まれまして
──────和香に、『いってらっしゃい! 頑張ってね』とメールして携帯電話にため息。
すぐに、『ありがとう! 今、郡司先輩と空港でお茶してる。お土産楽しみにしててね!』 という返信がきて、またため息。
郡司先輩と、って文字が胸をぎゅっとしめつける。
和香みたいに魅力があって美人な子と五日間も一緒にいたら……先輩は、部屋にいれてくれない女よりずっと楽しいと思う。
「どうしたの? ため息なんて珍しい」
すっかりロッカー友達の経理課の濱中さんに笑われた。経理課の濱中さんとは、出勤も帰宅も時間が一緒になることが多くて、着替えながらロッカー越しにお喋りする仲だ。
「うん、ちょっとね……」
「やだ! 意味深! まさか恋煩い?」
恋煩い……なのかな? 私、郡司先輩が好きなのかな?
「やめてよ、その沈黙! 茅野さんは、彼氏いない同盟の一員だと思ってたのに裏切り?」
「あはは、彼氏はいないよー」
「なんだ、よかったー。じゃあ、片思い?」
「うーん。そうなのかな? それすら分からない」