飼い犬に手を噛まれまして

 郡司先輩を好きになるなんて、おこがましいというか、身分違いな気がする。

 先輩な社内でも多分一番のエリートだ。未来も有望で、おまけにあのルックス。


 社内でも一番地味な裏方的な庶務課勤務の私が好きになるなんて、きっと辛いだけの恋になる。



 早々と着替えを済ませた濱中さんが、ヴィトンのカバンを背負いながら、クスクスと笑った。



「裏切るとか、冗談だからね。茅野さん」


「え?」


「そんな落ち込んだ顔しないで、私たち今は彼氏いない同盟だけど、いつでも裏切っていいからね」


「濱中さん……ありがとう。でも、ほんと、分からないんだ」



「気つかわないでいいよ。すっごい悔しいけどね! アハハハ。また、来週ね。お疲れ様」


「お疲れ様」


 そっか、明日から休みだった。郡司先輩のこと考えてたら、今日が金曜日なんてこと忘れてた。

 ハンガーにかけた制服をもう一度外して、折り畳んでカバンに入れた。土曜日は洗濯の日だから、いつも金曜日に持ち帰って、干してアイロン掛けをする。




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