飼い犬に手を噛まれまして
私が呼び間違える度に、先輩は、お仕置き、と囁いて私の背後にスッと立つ。
「紅巴、ほんとここが弱いよな」
「あぁっ……」
先輩の舌が耳の輪郭を丁寧になぞる。それからすぐ近くで聞こえる吐息に、体中が熱くなる。
「周渡、待って、ワンコが来ちゃう……」
「いいだろ、別に。紅巴は俺のものだし、ここは俺たちの家だ」
「そうだけど」
先輩が私の左手に指を絡ませる。お揃いのプラチナのリングがきらりと光った。
「裏切り者の副社長に電話して、来るの一時間遅らせてもらえよ」
「駄目だよ、さっきタクシーで向かってるって連絡きたばかりだもん!」
「我慢できるの?」
先輩が首筋を甘噛みした。料理するからと髪をひとまとめにしていたのが、仇になった。
「あっ!」
「紅巴は、うなじも弱い」
「わかってるから、声に出さないで……」