飼い犬に手を噛まれまして


 帰り際の玄関先で、ワンコはまたウるっと瞳を湿らせる。



「本当は、お泊まりしたいんですけど……」


「うん、またくればいいじゃん。私たちも遊びに行っていい?」



 ワンコのかわりに、みはるさんが頷いた。



「紅巴さんが好きです」


 ワンコの好きは、恋愛感情の好きじゃない。


「私も好きだよ。星梛もみはるさんも」


 紅巴さーん、と抱きついてきたワンコの背中をあやして、みはるさんに「大変でしょ?」と訪ねると、満面の笑みで「ええ、とっても!」と力強い答えがかえってきた。


 帰りは、みはるさんに首を掴まれて私から引き離されたワンコを見送る。


 部屋がシンと静まると寂しさが心を占める。


 また、いつでも会えるから……ほんの少し同居しただけの相手だもん。


 それに、私には先輩がいる。






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