飼い犬に手を噛まれまして
「全然いいよ。その分、残業代ガッツリいただきますから」
山咲さんは人の良さそうな顔をしていて、口あたりも柔らかい。物腰穏やかで、優しい人だ。
「そういえば、昨日茅野ちゃんが帰ったあと郡司もいなくなったんだけど……まさか『送っていく』とか言われてないよね?」
「え? どうして……」
「アイツ、得意なんだよね。送り狼ってやつ。まさか、茅野ちゃんみたいな純なタイプには手を出さないと思ってたんだけど、なんか嫌なことされなかった?」
得意……ってことは私以外の女の子にも、そうしてるって意味だ。
「やだな、山咲さん! 郡司先輩が私のことどうこうしようとか、絶対有り得ないですよ? 一人で帰りましたよ」
山咲さんは「そうかな?」と首を傾げた。
「俺の勘違いならいいんだ。茅野ちゃんも、聞かされてるでしょ? 姫のこと」