飼い犬に手を噛まれまして

 和香の気持ちを知ってしまった。これじゃ、八方塞がりだ。


「あ、すみません山咲さん。私、このお店寄るから今日はここで」


 泣き出したいのを我慢するのは辛い。駅までもたない。優しい山咲さんから逃げるように適当なお店を指差した。


「へー、ペットショップ! 茅野ちゃん、ペット飼ってるんだね。あ、俺も時間がヤバい! じゃあ、またね。姫が帰ってきたらよろしくね」


「はい、お疲れ様です」


 頭を下げてお店に足を踏み入れた。行くって言ったもんは、しょうがないけど……よりによって、なんでペットショップを指差しちゃったんだろ?



「いらっしゃいませー!」


 金曜日の丸の内。ペットショップに寄る人は少ないのか、店員さんが待ってました! とばかりに愛想よく挨拶してくれる。


 涙がグッと引っ込んでしまった。そうだよね、もう郡司先輩のこと考えるのは止めよう。

 どんなに考えても、和香と先輩は五日間シカゴで二人きりだから。


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