飼い犬に手を噛まれまして
電話の向こう側では、人の動く気配がする。
そして知らない女の人の声がした。
『あんたの可愛いワンコは預かった』
「えっ?」
なに? うそ??
まさか、ゆ、ゆ、誘拐っ!?
『返して欲しければ一人で迎えに来い』
ドスの利いた低い女の人の声。その声だけで、相手が本気なのがわかるし、それにコワい……絶対に普通の人じゃない。
どうしよう…………ワンコ可愛いから、変な人に捕まっちゃったんだ…………
「あ、あの! みはるさんは一緒じゃないんですか?」
『みはるは、いない』
冷静な声だ。みはるさんの事を知っているのかもしれない。
だとすると目的は、なんだろう……
身の代金?
それとも、まさか社長の仕業かな?
社長はワンコとみはるさんを別れさせるために色々細工していたみたいだし、それにワンコはまだお父さんと和解していないらしい……
先輩もその事をすごく気にしていたっけ…………
泣き出したいのを我慢して、声を震わせる。
「私迎えに行きますから、ワンコには変なことしないで……」